
外壁タイルの安全性を確保するには「いま建物がどの程度傷んでいるか」を把握する工程と「実際にどう直すか」を決めて施工する工程が欠かせません。
前者が非破壊検査で、後者がタイル注入工法などの補修工事です。本来の役割は違うのですが、現場では「検査をすれば工事は不要」「とりあえず注入しておけば安心」といった誤解もあります。結果として、必要な補修が後回しになったり、逆に過剰な工事で費用が膨らんだりするリスクも出てくるのです。
そこで今回のお役立ちコラムでは、外壁タイルの非破壊検査とタイル注入工法の役割の違いを整理してお話しします。「診断」と「治療」としてどのように組み合わせていくべきか?検査で分かること・分からないこと、注入工法が向くケース・向かないケースなどをまとめました。外壁タイルの維持管理に悩む管理組合やオーナーの方が、検査と工事をセットで相談する際の判断材料を得られる内容です。

外壁タイルは見た目がきれいでも、内部で浮きや剥離が進行していることもあります。まずは「どこにリスクがあるか」を把握し、次に「どの工法で対処するか」を決める二段階で考えることが重要です。
タイルやモルタルの剥落事故は、全国で継続的に報告されています。高さのある建物では、小さなタイル片でも落下すれば歩行者に大きな危険をおよぼすのです。建築基準法第12条に基づき、特定行政庁が指定する「特殊建築物等」については、定期報告の中で外壁タイル等の調査が求められています。
対象は用途や規模を満たす学校・病院・共同住宅などで、所管自治体ごとに指定建築物が定められているのです。
管理者には「状態を把握したうえで必要な措置を取る責任」があります。外観だけ見て判断し、浮きや剥離を放置することは、結果としてリスクを見過ごす行為になりかねないのです。
「一度非破壊検査をしたからしばらく何もしなくてよい」「注入工法で補修した部分はずっと安心できる」といったイメージの方も現場にはいます。実際には、検査はあくまで現時点の状態を確認する手段でしかありません。将来にわたる安全を保証するものではないのです。
また、注入工法も万能ではありません。下地やタイル自体の劣化が激しい場合、張替えや全面改修も必要です。「検査だけ」「注入だけ」に偏ると、必要な対策が抜けたり、逆に不必要な範囲まで工事を広げたりする危険性もあります。
非破壊検査は「タイルやモルタルを壊さず、浮き・剥離・ひび割れなどの有無を調べる診断」です。目的は、外壁の状態を客観的に把握し、どの範囲をどのレベルで補修すべきか、判断材料をそろえることにあります。
代表的な方法は「打診調査」「赤外線サーモグラフィ」「超音波・AE」などです。打診調査は専用のハンマーや打診棒で、タイル表面を叩き、音の違いから浮きや剥離を見つけます。
赤外線サーモグラフィは、外壁表面の温度差を可視化し、浮きや含水の可能性を推定する方法です。超音波やAEは、内部のひび割れや空隙の有無を調べます。
大規模な建物ではこのような手法を組み合わせて調査計画を立てていきます。建物の高さや形状や予算に応じ、どの方法を採用するかを決めていくのです。
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非破壊検査で分かるのは主に「変状の有無」と「おおよその分布・量」です。どの面に浮きが多いか?ひび割れが集中している箇所はどこか?といった情報を得られます。
一方、タイルと下地の付着強度を正確な数値で示したり、今後何年もつかを断定したりすることはできません。日射条件や気温によって結果が変わる検査もあります。複数回の調査や他の方法との組み合わせが必要な場合も出てくるのです。
検査結果はあくまで「危険度を分類する材料」で「工事が不要と証明する書類」ではないという理解が求められます。

タイル注入工法は非破壊検査などで見つかった浮き部分に対し、接着樹脂を注入して、再び躯体に固定します。既存タイルは極力残しながら剥落リスク対策をする「延命型」と言える補修方法です。
一般的なエポキシ樹脂注入工法は、まず浮きタイルの位置をマーキングし、目地などに小さな穴をあけます。その穴から樹脂を注入し、タイル裏の空隙を埋めるのです。
注入後、樹脂の回り具合や所要量を確認し、硬化を待ってから穴をモルタルなどで仕上げます。品質を左右するのは、適切な穿孔位置と本数や、下地の乾燥状態や樹脂の種類や粘度の選択です。含水が多い状態や、下地モルタルがすでに脆くなっている場合、期待した付着力が得られないこともあります。そのため事前の診断は欠かせません。
注入工法が効果を発揮しやすいのは、タイル自体に大きな割れや欠けがない場合です。また、浮きが面として連続していても、下地コンクリートは健全と判断できる場合があげられます。
一方「タイル表面に多数のひび割れがある」「下地モルタルごと剥離」「躯体クラックや凍害・塩害が進んでいる」といった場合、注入だけだと根本的な解決になりにくいのです。張替えや、部分的な下地のやり替えが必要になります。検査結果と照らし合わせ「注入で延命できる範囲」と「張替えに切り替えるべき範囲」を分けて考えるのが現実的です。
非破壊検査とタイル注入工法は、どちらか一方を選ぶものではありません。「診断」と「治療」を組み合わせる関係とも言えます。
参照:外壁タイル等落下物対策の推進について(国土交通省)
参照:住宅・建築物の外壁調査・診断技術の取組み(国土技術政策総合研究所)

最初にするのは、検査報告書の図面や数量表から、浮きやひび割れの分布と量を確認します。そのうえで「単純な浮きが中心の箇所は注入工法を主体に」「割れや欠損を伴う箇所は張替えを基本」といった方針を立てるのです。
次に、足場を設置する範囲や予算の上限や次回大規模修繕までの年数などを踏まえ、どこまでを今回の工事で確実に対処するか決定します。
このとき「安全性を最優先にする範囲」と「予算に応じて調整する範囲」を分けると、施工業者との打ち合わせもスムーズです。
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検査会社や施工会社に相談する前に「建物の用途・規模・築年数、過去の修繕履歴」「これまでに発生した剥落やクレームの有無」「今回の予算感と優先順位」などを整理しておけば、提案内容の精度も高まります。
「検査だけ依頼するのか」「検査から工事まで一括で任せるのか」といった発注方法も、メリット・デメリットを理解したうえで選びたいところです。
検査と工事を別々に発注すると、調査と施工の利害が分かれます。結果の客観性を確保しやすい一方で、発注者側の調整の手間は増えがちです。
逆に、検査から工事までを一括で任せる方式だと、工程調整は比較的スムーズになりやすいものの、第三者的な視点をどのように組み込むかが重要となってきます。たとえば、設計監理者や第三者検査の活用などです。
どちらの方式が自分たちの建物に合うか迷ったら、非破壊検査と補修工事の両方に精通した専門家へ相談しながら、比較検討していくと安心です。早い段階で相談窓口を決めておくと、計画の見直しや費用調整もしやすくなります。
参照:建築:定期報告制度における外壁のタイル等の調査について(国土交通省)
参照:建築研究資料「外壁タイル張り仕上げの補修・改修技術の概要と課題」(建築研究所)
参照:住宅・建築物の外壁調査・診断技術の取組み(国土技術政策総合研究所)
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非破壊検査と注入工法は「どちらが正しいか」ではなく、「建物の状態・リスク・予算・次回修繕までの期間」に応じて組み合わせ方を設計する領域です。
管理組合様・オーナー様・管理会社様から特に多い論点を、実務判断に使える形で整理します。
A.目的で決めるのが合理的です。広範囲の傾向把握や高所の一次抽出を重視するなら赤外線、補修数量の確定や局所の判定精度を重視するなら打診が軸になります。
実務では「赤外線で分布を掴み、要注意部位を打診で確定する」設計が、コストと精度のバランスを取りやすい方法です。
A.「不要の証明」にはなりません。検査は現時点の変状有無と分布を把握し、危険度を分類するための材料です。軽微でも落下リスクの高い部位(高所、出入口、動線上、端部・開口部周り等)があれば、部分的な措置が必要になる場合があります。
判断は「部位の危険度」「変状の種類」「再点検の計画」まで含めて行うのが安全側です。
A.目安は「タイル自体の健全性」と「下地の健全性」です。タイルに割れ・欠けが少なく、下地が健全で浮きが主体なら注入の適合性が高まります。
一方、タイルの破損が多い、下地モルタルごと剥離している、躯体クラックや凍害・塩害等が疑われる場合は、注入だけでは根本解決になりにくく、張替えや下地補修の比率を上げる判断が必要です。
A.それぞれ長所があり、案件特性で選ぶべきです。分離発注は調査の客観性を担保しやすく、数量根拠の透明性が高まりやすい一方で、発注者側の調整負担が増えます。
一括発注は工程調整が進めやすい反面、第三者性の担保(設計監理者や第三者検査の組込み、成果物の定義)が重要になります。重要なのは方式よりも、報告書・図面化・数量根拠・完了後確認の提出範囲を契約段階で明確にすることです。
A.一律ではなく、前回の修繕内容と劣化速度で決めます。一般論として定期的な外壁調査の枠組みは存在しますが、実務の最適解は「前回補修の仕様」「浮きの再発傾向」「雨掛かり・方位・環境条件」「次回大規模修繕までの年数」を踏まえたリスクベースの設定です。
点検結果を蓄積し、危険度の高い面や部位の監視頻度を上げる運用が、コストを抑えつつ事故リスクを下げます。

外壁タイルの維持管理で最も避けたいのは、「検査をしたから安心」「とりあえず注入しておけば大丈夫」という偏った判断により、必要な補修が抜けたり、逆に過剰な工事で費用が膨らんだりすることです。非破壊検査は状態を見える化する診断であり、注入工法や張替えはリスクに応じて実施する治療です。
両者を切り分け、検査結果を図面化・数量化したうえで、注入で延命できる範囲と張替えへ切り替える範囲を整理し、優先順位と予算上限、次回修繕までの期間を踏まえて工法を設計することで、説明責任と安全性の両立が可能になります。
修繕ひらまつでは、検査計画の立案から報告書の読み解き、補修範囲の線引き、見積の同条件化、施工後の確認と記録提出までを一連の意思決定プロセスとして整えます。ご相談は、問い合わせフォームからのお問い合わせ、メールでの資料共有、電話でのご相談、ショールームへの来店にて承ります。
現状の報告書や図面、過去の修繕履歴、既存見積があれば、論点を可視化し、過不足のないタイル修繕の進め方へ落とし込みます。
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